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家族性高コレステロール血症はどうやって治療するの?

2022年3月16日

家族性高コレステロール血症ってどんな病気?

家族性高コレステロール血症とは、LDLコレステロール(低比重リボ蛋白コレステロール=悪玉コレステロール)を肝臓で処理する能力が低い、あるいはないために、LDLコレステロールの血中濃度が高くなり、若いときから動脈硬化が進んでしまう疾患のことです。血管の壁にコレステロールが溜まると血管が硬くなったり、狭くなったりするため、血管が詰まりやすくなってしまうのです。

心臓の血管が詰まれば心筋梗塞、脳の血管が詰まれば脳梗塞を引き起こします。この疾患を引き起こすのは、LDLコレステロールを肝臓で処理するための「受容体」の遺伝子に起こる異常で、この異常な遺伝子を両親の両方から受け継ぐと重症の「ホモ接合体」、両親の片方からだけ受け継ぐと軽症の「ヘテロ接合体」となります。

ヘテロ接合体の人は約200~500人に1人、ホモ接合体の人は約16~100万人に1人の頻度で発症するとされ、日本では合わせて30万人以上の患者さんがいると考えられています。若いときからLDLコレステロール値が高いことを除けばとくに自覚症状がないため、大部分のヘテロ接合体の患者さんで見逃されやすいのが問題です。しかし、一部の患者さんでは、コレステロールが沈着した黄色っぽい隆起(皮膚黄色腫、腱黄色腫)が手の甲・膝や肘・まぶた・アキレス腱などに現れることで気づく場合もあります。

遺伝性の疾患であることから、親や兄弟・祖父母・叔父叔母など、血縁者にも同じ疾患を発症している人や、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈系疾患を発症する人が多いのも特徴です。また、心筋梗塞を発症する場合、男性では20歳代から始まって40歳代がピーク、女性では30歳代から始まって50歳代がピークと、比較的若いころに発症します。ホモ接合体の重症の場合、幼児期に心筋梗塞を発症することもあります。

家族性高コレステロール血症はどうやって治療するの?

家族性高コレステロール血症が発覚したら、LDLコレステロール値を低下させる治療を受けます。まずは、15歳以上の患者さんに行う治療法から見ていきましょう。

15歳以上の場合

最初は、食事療法としてコレステロールや動物性脂肪が少ない食事に変え、生活習慣を改善し、本人はもとより家族も禁煙します。しかし、そもそも生活習慣による疾患ではありませんから、生活習慣の見直しだけでLDLコレステロール値を正常値までコントロールできる人は少ないです。

生活習慣だけではコントロールできない場合、薬物療法を行います。まずはコレステロールの産生を少なくする「スタチン」と呼ばれる種類の薬(ロスバスタチン・アトルバスタチン・ピタバスタチン・プラバスタチン・シンバスタチン・フルバスタチンなど)が使われます。最初は1錠からスタートしますが、効果が不十分な場合は2錠以上に増やすこともあります。

また、スタチンだけでは効果が不十分な場合、コレステロールの吸収を妨げる「エゼミチブ」や、胆汁酸吸着レジン(肝臓でコレステロールから胆汁酸への変換を促進し、肝臓に取り込まれるコレステロールを増やし、血中コレステロール値を下げる)という「コレスチラミン、コレスチミド」などの薬を併用します。

さらに、これらの薬剤の使用、あるいは併用でもLDLコレステロール値のコントロールが不十分な患者さんに対しては、新しくPCSK9阻害薬という注射薬「エボロクマブ、アリロクマブ」が承認・販売開始されました。PCSK9とは、LDLコレステロールを肝臓に取り込む受容体を破壊してしまうタンパク質のことです。

これらの薬剤でPCSK9の働きを阻害すると、受容体によって正常にLDLコレステロールが肝臓に取り込まれるため、血中のLDLコレステロール値を低下させることができます。これらの注射薬を2週間に1回皮下注射することで、多くの患者さんの血中コレステロール値が着実に低下します。

いずれの薬を使う場合も、定期的に血液検査を行い、LDLコレステロール値が適切な範囲内におさまっているか、薬剤の副作用がないかを確認します。筋肉痛など、自覚症状がある副作用の場合はすぐに気づきやすいですが、自覚症状がない副作用の場合は気づきにくいため、定期的な検査が重要なのです。

ホモ接合体の場合、これらの薬剤(そもそも受容体が少しは存在していることが前提の薬剤)では効果が見られないこともあります。その場合、血中のLDLを肝臓に取り込ませるのではなく、他の方法で減らさなくてはなりません。その方法のひとつが、血中のLDLコレステロールを吸着して除去する「LDLアフェレシス」という治療法です。

LDLアフェレシスという装置では、血液透析のように血液を体外循環させることで、血中のLDLを吸着除去します。1~2週間に1回、この装置でLDLコレステロールを吸着除去して血中のLDLコレステロール濃度を下げ、動脈硬化の進行を遅らせたり、止めたりします。

もうひとつの治療法として、「ロミタピド」という内服薬が承認・販売開始されています。この薬は、肝臓や小腸でのリポタンパクの合成を阻害することで、LDLコレステロールの産生を抑えます。この薬剤により、重症の家族性高コレステロール血症の患者さんでもLDLコレステロール値を約45%減らすことができます。

しかし、ロミタピドを服用する場合、低脂肪食を守らなくてはなりません。食事中の脂肪が多くなると下痢しやすくなるほか、肝臓に脂肪が蓄積する副作用もあります。これらのことから、ロミタピドを服用する場合は副作用にも食事療法にも注意していく必要があります。

15歳未満の場合

家族性高コレステロール血症の患者さんは、生まれつきLDLコレステロール値が高くなりやすいことから、15歳未満や小児期でも診断と治療を開始できます。小児期に診断したり、薬を使った治療を行ったりするなんてかわいそうだと思う人もいるかもしれませんが、早いうちに診断し、治療を開始することで、むしろ将来の動脈硬化を遅らせ、長期にわたって健康に過ごすことができるのです。

家族性高コレステロール血症の患者さんがそれに気づいておらず、全く治療を受けないままだと、20歳代という若い時期に心筋梗塞を発症してしまうことも少なくありません。小児期に診断を行い、適切な治療を受けることで、その子の将来や人生をより良いものにすることができると言えるでしょう。

小児期の場合、基本は食事療法と運動療法を中心に行います。脂質と炭水化物を控えめにした日本食中心の食事で、野菜や大豆(大豆製品)・果物などをバランス良く摂取しましょう。運動はとくに指定はありませんが、できるだけ屋外で身体を動かす習慣を作り、楽しく続けられる運動を行いましょう。また、本人が喫煙しないことはもちろんですが、家族も喫煙しないことが重要です。既に喫煙中の人がいれば、禁煙してもらいましょう。

そして、定期的にLDLコレステロール値のチェックを行います。小学生の場合、春休み・夏休み・冬休みの年3回、血液検査を受けると良いでしょう。もし、10歳以上で、上記に挙げたような生活習慣をきちんと守っていてもLDLコレステロール値が180mg/dL以上の状態が続く場合には、薬の服用を検討します。

薬の中でも、ピタバスタチンは小児に対する適応が認められていますので、最初にこれを使います。もちろん、大人と同じように、服用中は定期的な血液検査と副作用のチェックが必要です。

ホモ接合体の重症な患者さんの場合、やはりスタチン・エゼミチブ・胆汁酸吸着レジン・PCSK9阻害薬などでは効果が出ないこともあります。その場合は成人と同様にLDLアフェレシスの治療を行います。ただし、体重が30kg未満の場合、LDL吸着法ではなく、血漿交換療法によって血中コレステロール濃度を低下させます。

小児の場合、ヘテロ接合体でも小児慢性特定疾病の対象疾患であり、ホモ接合体の場合は小児慢性特定疾病に加え、指定難病の対象疾患にもなりますので、医療費の公的な補助が受けられます。

妊娠中にコレステロールの薬を服用できる?

家族性高コレステロール血症の患者さんに対して多く処方される「スタチン」は、妊娠中・授乳中に服用することができません。そのため、スタチンを服用している場合、妊娠は主治医と相談しながら、計画的に行う必要があります。できれば、妊娠の3ヶ月前にはスタチンの服用を中止し、胆汁酸吸着レジンに変更しておかなくてはなりません。

妊娠期間中や授乳中は、この胆汁酸吸着レジンのみでLDLコレステロール値をコントロールしていきます。しかし、妊娠期間中、とくに後半にはLDLコレステロール値や中性脂肪値が上昇しやすいことから、食事療法をしっかりと行い、LDLコレステロール値をきちんと管理していかなくてはなりません。

とくに、重症のホモ接合体の患者さんの場合、妊娠期間中もLDLアフェレシスの治療が必要です。また、軽症・重症に関わらず、心筋梗塞を既に起こしたことがある場合も、妊娠期間中はLDLアフェレシスの治療が必要です。

おわりに:家族性高コレステロール血症の治療は、主に薬物療法が使われる

家族性高コレステロール血症は、生活習慣によって起こるものではなく、そもそもLDLコレステロールを処理する機能自体に異常が起こってしまうものです。ですから、生活習慣を改善することはもちろん重要ですが、それだけではLDLコレステロール値をコントロールしきれないことも多いのです。

その場合は、薬物療法が使われます。また、重症で薬物療法では効果が不十分な場合、LDLアフェレシスという装置が使われます。

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