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溶連菌感染症の症状や合併症の特徴と治療期間中の注意点は?
2023年9月13日
溶連菌感染症とは?
溶連菌とは、正式には「溶血性連鎖球菌」と呼ばれ、溶血の程度によってα・β・γの3種類に分類されます。溶血とは赤血球の細胞膜が破壊されることで、細胞膜が破れると中身が漏れて細胞としての形を保てなくなって崩れてしまうため、結果的に赤血球は死滅してしまいます。
α型は細菌のコロニー周辺でのみ溶血を起こすタイプで、範囲が非常に狭く、また溶血を起こす範囲である「溶血帯」の中でも溶血を起こしたり起こさなかったりするため、不完全溶血とも呼ばれています。β型が最も毒性が強く、広い溶血帯の中のほとんどの赤血球が溶血して死滅します。γ型は溶血を起こさないため、非溶血と呼ばれます。毒性は非常に低いです。
このうち、ヒトや動物に溶連菌感染症を引き起こすのはβ型のもので、そのうちA群に属する細菌類が90%を占めます。β型の連鎖球菌にはA、B、C、G、L群などの分類がありますが、B・C・G群などは鼻や喉・皮膚などに存在する常在菌であり、基本的には感染症の原因になりにくい群です。
ですから、一般的に「溶連菌感染症」と言った場合、「A群β溶血性連鎖球菌」による感染症のことを指します。主にのど(咽頭・扁桃)に感染し、咽頭炎や扁桃炎、猩紅熱などを引き起こします。その他には以下のような症状が現れます。
- 38℃~39℃程度の発熱
- 体や手足に小さく紅い発疹が出る
- 舌にイチゴのようなつぶつぶとした発疹が出る
- 頭痛・腹痛
- 首筋のリンパ節の腫れ
発疹は、急性期を過ぎると皮がむけて終わることがあります。また、のどの痛みや発熱があっても、風邪とは違って咳や鼻水が出ないのが非常に特徴的な症状です。潜伏期間は2〜5日で、実際に感染してから発症するまでに少しタイムラグがあります。
溶連菌感染症で心配される合併症とは
溶連菌感染症によって引き起こされる病状・疾患には、以下のようなものがあります。
- 粘膜系
- 咽頭炎、扁桃炎、猩紅熱、中耳炎、副鼻腔炎など
- 皮膚・軟部組織系
- 伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしょう:とびひ)、蜂窩織炎(ほうかしきえん)、丹毒(たんどく)など
- その他
- 肺炎、菌血症、トキシックショックライク様症候群(TSLS)
連鎖球菌の引き起こす症状には黄色ブドウ球菌の引き起こす症状と同じものが多々あり、とくに「伝染性膿痂疹(とびひ)」「蜂窩織炎」などはどちらの細菌によっても引き起こされる細菌感染症です。とびひでは皮膚の表面に水疱や膿疱がみられ、蜂窩織炎では発赤や痛み、圧痛がみられます。連鎖球菌による蜂窩織炎の場合、免疫を抑制する酵素を産生するため、感染範囲が広がりやすくやっかいです。丹毒は、蜂窩織炎が皮膚の表面に限定して起こったものです。
これらの病状が進行すると、以下のような合併症を引き起こすことがあります。これらの合併症の頻度は決して高いわけではありませんが、適切な治療をせずに放置しておくと発症のリスクが高くなります。風邪だと思い込んで放置せず、医師の処方した抗生物質を飲んでしっかり治療を行いましょう。
- 中耳炎・気管支炎・リンパ節炎
- 乳幼児に起こりやすい合併症
- 幼児では首の部分のリンパ節の腫れを伴うことがある
- 急性腎炎
- 溶連菌感染後、2~4週間後に発症することがある
- 突然のむくみ、尿の出が悪くなる、尿に血液や蛋白が混じるなどの症状が現れる
- 2~4週間後の尿検査で異常がなくても、その後急に発症することもある
- まぶたの腫れや濃い血尿が出るようであれば、検査を行う
- リウマチ熱
- 溶連菌に対する抗体が心臓や関節・神経に対しても攻撃してしまう自己免疫疾患
- 溶連菌感染後、数週間で発症することがあるが、最近ではほとんどみられない
- 関節痛、発熱、心臓の炎症、発疹など
- アレルギー性紫斑病
- 全身の小さな血管に炎症が起こり、出血斑が現れる(溶連菌からの場合主に下肢に出現することが多い)
- 腹痛・関節痛、むくみなど
- 腎症状を併発する場合、紫斑病性腎炎となり症状が長引くことも
溶連菌感染症の治療期間中の注意点
一般的に、溶連菌の治療では抗生物質を10日~14日程度飲み続ける必要があります。抗生物質を飲み始めると数日で症状は落ち着いてきますが、だからといって自己判断で薬を飲むのを止めてはいけません。症状が落ち着いても、菌が体内にいると症状が再発するだけでなく、合併症を引き起こす可能性が高くなります。とくに、2~3日程度で抗生物質を飲むのをやめてしまった場合、再発して腎炎などにかかりやすくなることがわかっています。
また、最近ではほとんどみられなくなってきていますが、リウマチ熱を合併して発症した場合、心臓に炎症を起こす可能性があります。このとき、心臓の弁が影響を受けることが多いため、リウマチ熱の発症後、何年も経ってから心臓弁膜症を引き起こす可能性があります。心臓弁膜症になると血液の逆流を防ぐ弁に異常が現れますので、血液が逆流しやすくなったり、逆に流れにくくなったりすることがあります。
これらの合併症を防ぐためにも、症状が消えても医師の指示通りに抗生物質をしっかり飲み続けることが必要です。小さい子どもでは薬の飲み忘れが起こりやすいですが、そうならないためには身近な大人が管理するなどして、飲み忘れが起こらないようにしましょう。
治療期間中、家庭内で気をつけることは?
溶連菌感染症の治療期間中は、「発症した人の症状を悪化させないこと」と「家族間での感染を防ぐこと」が大切です。症状を悪化させないために、以下のようなことに気をつけましょう。
- 食事
- 熱すぎる、冷たすぎるなど、のどに刺激の強いものを避ける
- ゼリー、ヨーグルト、スープ、お粥などのどごしがよく、消化のよいものを食べる
- 水分補給はしっかり行う。ただし、その場合も炭酸水などの刺激の強いものは避ける
- 入浴
- 熱があるうちは避ける
- 熱が下がれば、入浴しても問題ない
- その他
- 基本的には感染の拡大を避けるため、マスクなどをするのが望ましい
溶連菌感染症では、のどに感染して炎症を起こしていますので、のどに刺激を与えるような香辛料や炭酸、熱すぎたり冷たすぎたりするものは控えてください。ゼリーやヨーグルト、スープやお粥など、のどごしがよく消化によいものを中心に食べるようにしましょう。
また、溶連菌感染症は子どもがかかりやすい疾患ですが、大人もかからないわけではありません。感染予防にマスクをしたり、感染している子供と同じ食器を使わないなどの工夫が必要です。一緒に遊ぶ兄弟姉妹にも感染しないよう、マスクをしながら遊ばせたり、食事の前に手洗い・うがいをしたりするようにしましょう。
おわりに:溶連菌感染症の合併症を起こさないためには、薬をしっかり飲みきる
溶連菌感染症の合併症の頻度はそれほど高いものではありません。しかし、これは医師の指示どおりに抗生物質をしっかり飲んでいた場合で、2~3日で抗生物質を飲むのをやめてしまうと合併症を発症するリスクが高くなります。また、治療中はのどに刺激を与えないようなものを食べさせるとともに、感染の拡大を防ぐため、家庭内でもマスクや手洗い・うがいを意識すると良いでしょう。
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。