子育て
不注意優勢型ADHDの特徴と日常生活でできる対処法
2022年9月14日
不注意優勢型ADHDの症状の特徴 ― 不注意と衝動性の違い
不注意優勢型ADHDでは、多動性の症状はあまり見られず、「不注意」と「衝動性」が症状として目立って見られます。不注意や衝動性そのものは誰にでも見られる情動ですが、それが小さなミスでとどまらず、日常生活にまで大きく影響を及ぼすほどになってしまうほど強くなると、ADHDの可能性が考えられます。
不注意が原因で起こる症状
不注意とは、注意力が弱いために一定時間集中力を保てない状態のことであり、注意力が弱いことからよく物をなくしたり、整理整頓ができなくなったりしてしまうことです。また、「周囲に気が散って集中できない」「細かいところまで注意が向かない」「いつもボーッとしている」なども、不注意の症状として現れることがあります。
注意力に関係しているのは、脳の「前頭前野」と考えられています。前頭前野は、外から入ってきた情報を整理して保存し、活用する働きがあります。
不注意の症状が出る人はこの部分の働きが弱く、言われたことを記憶したり、ものを置いた場所を記憶したり、持ち物を整理して保存する、といったことが苦手になってしまうのです。
衝動性が原因で起こる症状
衝動性とは、自分の感情や欲求をコントロールできず、思ったことややりたいことを突発的にしてしまう状態のことを言います。感情や発言、行動などを場に合わせてコントロールすることが苦手なため、周囲の人に無神経、短気などの印象を与えてしまいます。
この特性のため、喜怒哀楽が激しく、自分の思い通りにならないとすぐに癇癪を起こしてしまうこともあります。このような感情的・突発的な行動が多いと、集団生活の中で孤立してしまうことも多いです。
- 衝動性で起こる具体的な症状
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- 思ったことをすぐ口にしてしまう
- 順番を待つのが苦手
- 優先順位をつけられない
- すぐにカッとなってしまう
不注意優勢型ADHDがうつ病や不登校を引き起こす?
不注意優勢型ADHDの症状は、「本人の単なる努力不足」や「能力の低さ」ととらえられてしまうことがよくあります。ADHDに限らず、発達障害の症状は「脳機能の障害」から起こります。本人は十分努力していても、なかなか直せず、苦しんでいることも多いです。
このような事情を理解されず、周囲から叱られたり厳しい訓練をされたりすると、本人の自尊心が大きく低下してしまうことがあります。
自尊心が低下すると、本人が持っている良い資質も伸ばせなくなってしまうことがあります。自尊心の低さから集団生活に馴染めなくなり、不登校やひきこもりになってしまったり、「二次障害」としてうつ病などの精神疾患を引き起こしてしまったりすることもあります。
一次障害と二次障害
発達障害における一次障害とは、発達障害の人が持つ特性から発生する「普段の生活の困りごと」のことです。不注意優勢型ADHDでは、不注意による症状が原因で失敗したり、衝動性による症状が原因でトラブルを起こしたりすることなどが当てはまります。
二次障害とは、「普段の生活の困りごと」によるストレスやトラウマなどが引き起こす身体症状や精神症状のことです。
二次障害で多いのはうつ病などの「精神疾患」ですが、精神的な問題は、頭痛や腹痛、チックなどの「身体症状」として現れることもあり、引きこもりや依存症、暴力、暴言など、行動や素行の問題として現れることもあります。
不注意優勢型ADHDの症状を改善するトレーニングと治療法
ADHDや自閉症スペクトラム(ASD、アスペルガー症候群)は、2021年12月現在、根本的に治療することはできません。しかし、生活習慣や教育、周囲の働きかけ、医師の指導、治療薬などを通して症状を軽減させ、日常生活を送りやすくすることはできます。具体的には、以下のような働きかけが効果的とされています。
- ソーシャルスキルトレーニング(SST)
- 環境改善
- ペアレントトレーニング
- 薬物療法
ソーシャルスキルトレーニング(SST)
ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは、社会の中で生きていくために必要な能力=スキルを育てていくためのトレーニングのことで、学校、発達障害のための療育施設、病院などで取り入れられていて、職場に設置されていることもあります。
ディスカッションやロールプレイなどを通して行動の仕方を学ぶトレーニングであり、自治体や家庭内で行えるものもあります。興味がある場合は、近くの病院や療育センターなどに相談しましょう。
環境改善
環境改善とは、家や教室などの生活環境を本人にとって過ごしやすいように調整することです。子供なら、勉強するところと遊ぶところを仕切る、机の上や近くにはおもちゃを置かないなどの方法があり、大人ならメモやスマホのスケジュールアプリを活用する、紛失防止のタグをつけるなどがおすすめです。
ペアレントトレーニング
ペアレントトレーニングとは、発達障害の子供を持つ保護者の大人に対して行われるトレーニングのことであり、子育てに関する不安や困ったことなどを解消し、子育てを楽しんでもらえるよう支援するためのプログラムがあります。
具体的には「子供の上手な褒め方」「間違った時の注意の仕方」などを学びます。各都道府県の「発達障害者支援センター」や「教育センター」などで受けられます。
薬物療法
薬物療法は、精神科などの専門の医療機関で診察を受け、不注意優勢型ADHDの症状を和らげることができると判断された処方薬を服用する方法です。現在、日本で認可されているADHDの処方薬は、ストラテラ®(アトモキセチン)、コンサータ®(メチルフェニデート)、インチュニブ®(グアンファシン)の3種類があり、インチュニブ®は6〜17歳の子どもに対してのみ処方されます。
ストラテラ®は脳内の神経伝達物質である「ドーパミン」「ノルアドレナリン」の作用を強めてADHDの症状を緩和する薬剤であり、コンサータ®とインチュニブ®は「ノルアドレナリン」の作用を強める薬剤です。これらの薬剤には消化器や神経への副作用もあるため、医師と十分相談した上で処方してもらうようにしましょう。
専門機関への相談もおすすめ
上記で紹介した働きかけのどれから始めたらいいかわからない、自分や家族、パートナーの症状に対してどれが合っているかわからない、という人は、専門機関である「発達障害支援センター」などに相談してみましょう。子供の場合は、「保健センター」「子育て支援センター」「児童発達支援事業所」などでも対応してもらえます。
不注意優勢型ADHDによる困りごとへの対処法
不注意優勢型ADHDによる「普段の生活での困りごと」を減らすためには、まず「自分の状態をしっかり把握する」「安心できる環境を整える」「打てる手立てについて十分な情報を得る」ことが大切です。専門家に相談する前に、一度自分で困りごとを書き出し、それに対して打てる手立てを調べてみましょう。それを持って支援センターなどで相談すると、整理して状況を伝えることができますし、担当者も適切なアドバイスをしやすくなります。
また、子供の不注意優勢型ADHDに対しては、家庭や学校で以下の配慮ができるようにしましょう。
- 不注意に関する配慮
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- 必要なものは親や先生と一緒に確認する
- 注意をそらしてしまうような刺激を少なくする
- 飽きないようにこまめに声掛けしたり、課題を切り替えたりする
- 文字や絵など、視覚的な指示を使って注意を引く
- スマートフォンのアプリ、アラームなどを活用してリマインドする
- なくしやすいものにはタグや名前・連絡先をつけ、紛失しても見つけやすいようにする
- 衝動性に関する配慮
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- 声掛けでやるべきことを思い出させ、気持ちを落ち着かせたりする
- 大枠のルールをしっかり決め、その中ではある程度自由な行動を許可する
- 水を飲む、一人になるなど、クールダウンする方法を本人と一緒に探しておく
子供の不注意優勢型ADHDの場合、保護者や先生など、周囲の大人がある程度環境を整えてあげることも大切です。
ADHDに限らず、子供は好奇心が強く、そもそも注意が逸れやすかったり、興奮しやすかったりするものです。刺激になりそうなものをできるだけ少なくする、こまめに声掛けをして注意を引いたり気持ちを落ち着かせたりするなどの配慮をすることで、家庭や学校などのトラブルを避けやすくなります。
また、将来的に本人が自分で自分の状態をコントロールできるよう、リマインドやクールダウンの方法を本人と一緒に設定したり、探したりしてあげることも大切です。スマートフォンのアプリを自分で設定してもらう、水を飲む、一人になるなどその子の落ち着ける環境を一緒に考えて実行してみる、などの試行錯誤を繰り返していきましょう。
こうした試行錯誤の中で、だんだん注意力や衝動性のコントロールが上手くいくようになれば、その子供本人にも、「自分で自分をコントロールできた」という自信がついていきます。このように適切な対処をしていきながら、本人も周囲の人も安心して社会的な生活を送れるようになることが最終的な目標です。
おわりに:不注意優勢型ADHDは不注意と衝動性の症状が強い。家庭や学校での配慮が助けになる
不注意優勢型ADHDは、名前の通り「不注意」と、「衝動性」に関する症状が強く出るタイプのADHDです。ADHDは発達障害の一種ですから、本人の努力不足や性格ではなく、脳機能の障害によってこれらの症状が出ているのです。
根治はできませんが、生活習慣や周囲の理解と働きかけ、投薬などである程度改善することが可能です。ぜひ、セルフチェックだけでなく支援センターなどの専門機関にも相談してみましょう。